II.業務委託契約の構成

前述のとおり、業務委託の対象となるサービス自体が多岐にわたっていることから、業務委託契約についても単一の契約書一本で完結するのではなく、複数の契約書をセットで取り交わすことが一般的です。実務上、当事者間での業務委託に関する基本的な約束事を規定した「基本契約書」と、報酬の支払方法やサービスの提供頻度・方法等に関する具体的な取り決めを規定した「個別契約書」の2種類の契約書を作成することが多いかと思います。

また、業務委託の内容、規模等によっては、提供するサービスの仕様等を定めた「サービス仕様書」など、さらに多数の契約書を取り交わすことも珍しくなく、以下のように多層的な構造となっていることも珍しくありません。

業務委託契約フロー

このように、業務委託契約の内容は提供されるサービスの内容に応じて多種多様であり、契約書の分量も取引規模等に応じて数頁から数十頁にまで及ぶこともあり定型化は困難ですが、その中でも特にポイントになる条項はいくつかあります。以下、各項目に沿ってポイントを解説していきます。

なお、条文例中、「甲」は委託者を、「乙」は受託者を意味するものとします。

1.業務の内容及び範囲(☆)

業務委託契約においては、実務上、「本来予定していた業務内容と異なる業務しか提供されていない」、「当初約束していた範囲を超えて、過度のサービスの提供を要求されている」といったことから紛争が生じることがままあります。そのため、業務委託契約書を作成する場合、委託(受託)する業務の内容及び範囲を、誤解の生じる余地がないほどに明確に記載することが大切となります。

もっとも、実際には契約を締結する時点においては、業務内容の詳細までは当事者間で合意に至っていないことも多々ありますので、そのような場合には、大まかな業務の内容や具体的な業務の提供方法の決定手続だけを先行して「基本契約書」に規定し、その詳細については後に締結する「個別契約書」で規定する、といった方法が考えられます。

【例】

(本件業務の内容)

1.   本件業務の内容は、以下の各号に定めるとおりとする。乙は、本件業務の円滑な遂行のために、必要な能力を有する人員を必要な人数確保しなければならない。

(1)   ○○○○

(2)   ○○○○

(3)   ○○○○

2.   本件業務の遂行にあたり、前項各号の定めに含まれない業務を遂行する必要が生じた場合には、その都度、甲乙協議して必要な本件業務の内容及びその遂行方法その他の必要事項について、個別契約書において定めることとする

2.指揮命令(☆)

委託業務を遂行する際に、誰がどのようにして指示等を行うのかを明確に規定しておくことが重要となります。

とくに、業務委託契約の実質が請負契約の場合には、いわゆる「偽装請負」(形式的には請負契約であるものの、実態としては労働者の供給であり、受託者の従業員が委託者の指揮命令下にあるもの)に該当し、職業安定法等に違反して違法とならないよう、指揮命令関係を明確にしておくことが重要となります。

【例】

(指揮命令)

乙は、乙の主任担当者に対して、以下の各号に掲げる業務を遂行させるものとする。

(1)  自らの担当する本件業務に携わる乙の役職員等に対する、本件業務遂行に関する指示、管理及び労働時間等の管理を行うこと。

(2)  自らの担当する本件業務に携わる乙の役職員等に対して、甲の企業秩序を遵守させること。

ただし、緊急時においては、甲は、乙の役職員等に対して、本件業務遂行及び甲の企業秩序維持の遵守を、必要な範囲で直接依頼できるものとする。

3.再委託等(☆)

委託者の場合、委託者としては、受託者自身による業務遂行を期待している場合も多く、受託者が第三者に業務の遂行を第三者に再委託する場合には、委託者の事前の書面による同意が必要である旨を明記しておく必要があります。

また、再委託を許容する場合においても、再委託先の一切の行為について受託者が責任を負う旨を契約書に明記しておく必要があります。

【例】

(再委託)

乙は、甲の事前の書面による同意がある場合、第三者に本契約及び個別契約に基づく業務を再委託することができる。この場合、乙は、当該第三者に本契約及び個別契約の条項に基づく乙の義務と同等の義務を遵守させるために必要な措置を講ずるとともに、当該第三者の行為について責任を負うものとする。

4.納期・納入場所

コンサルタント業務や調査業務においてレポートを作成する場合のように、受託者が委託者に対して一定の成果物を作成することを予定している場合があります。このように、成果物の作成を予定している場合には、作成する成果物の内容を可能な限り具体的に特定するとともに、その納入期限、納入場所、納入方法、検査期間等について規定しておく必要があります。

これにより、受託者の義務の内容が明確になるとともに、受託者の義務が適切に履行されなかった場合には、受託者に対して契約上の義務違反を追及することが可能となります。

【例】

(納入場所及び納入期限)

1.   甲乙間で別途定めない限り、本件業務の遂行により作成されたシステム仕様書、マニュアル、個別の作業報告書その他のドキュメント、プログラムを含む一切の成果物(以下「本件成果物」という。)の納入場所は、甲の指定する場所とする。

2.   甲乙間で別途定めない限り、本件成果物の納入期限は、本契約で定める納入期限とする。

3.   乙は、本件業務の終了後、本件成果物を、本条第2項に定める納入期限までに、本条第1項に定める納入場所へ納入する。

5.   検収(☆)

委託業務の内容が一定の成果物の作成を目的とする場合には、受託者の作成した成果物が、委託者の求める必要な要件、条件等を満たしていなかった場合、契約の目的を達成できないため、当該条件等を満たしているかを確認すべく、検収条項を規定しておくことが実務上は重要となります。

検収条項では、受託者の作成した成果物が必要な要件、条件等を満たしているか否かを判断するための合否基準等を定めることとなります。そして、受託者の作成した成果物が必要な要件、条件等を満たしていない場合には、受託者に再度、成果物を納入させ、委託者は再度それが必要な要件、条件等を満たしているかを確認する手続も定めておく必要があります。

このように、検収条項は契約締結の目的を達成できるかどうかを確認するための重要な規定であるとともに、実際には予定していたとおりに成果物の作成・納入が間に合わない場合も多々あるため、現実にワークするか想像力を働かせ、合理的に幅を持った検収期間等を設定することが大切となります。

【例】

(検収)

1.    甲は、乙より納入された成果物の納入検査を個別契約に定める期間内に行い、検査合格をもって検収完了とする。

2.    前項に定める検査の結果が甲乙があらかじめ合意した成果物の要求事項を客観的に満たしておらず不合格の場合、乙は甲の指示に従い、乙の費用と責任において、直ちに代替品又は不足分の納入、若しくは成果物の修補を行うものとする。

3.    甲は、前項により納入又は修補された成果物について、再度検査を行うものとする。この再検査についても、前二項を準用する。

4.    乙が本条第2項に定める期間内に成果物の検査結果の通知を甲から受領しなかった場合、当該期間の満了をもって、当該成果物の検査は合格したものとする。ただし、乙の責に帰すべき事由による場合はこの限りではない。

6.   受託者の瑕疵担保責任

委託業務の内容が、一定の成果物の作成・納入を目的とする場合において、検収完了後に成果物が必要な要件、条件等を満たしていないことが判明したときの受託者の責任を規定しておく必要があります。受託者の責任としては、不具合の修正等、不具合のある目的物を委託者に納入したことに伴う損害賠償等があり得ますが、瑕疵担保責任を追及することができる期間については、成果物の内容から、合理的な期間を設定することが一般的です。

【例】

(瑕疵担保責任)

甲は、検査の完了後から6ヶ月の間に、成果物の瑕疵を発見した場合、乙に無償で修補を請求することができるものとする。

7.   知的財産権の取扱い(☆)

業務委託契約においてよくある誤解として、「委託者は、契約書に何も規定していなくても、当然に成果物に係る知的財産権を取得する」という誤解があります。委託者が受託者に対してお金を払っていることから生じる誤解かと思いますが、契約書中に知的財産権の取扱いについて何も規定していない場合には、受託者が作成した成果物に係る知的財産権は受託者に帰属し、委託者に移転しないのが原則です。

したがって、委託者としては、成果物に係る知的財産権が受託者から委託者に移転する旨を明確に規定しておく必要があります。

なお、著作人格権については、契約によっても移転しないため、委託者としては、「受託者は成果物に係る著作人格権を行使しない」旨も併せて明記しておくことが望ましいといえます。

【例】

(知的財産権等)

1. 乙は、本件成果物について発生する特許又は実用新案登録を受ける権利及び工業所有権を受ける権利を、発生と同時に発明者又は考案者より譲り受けるものとし、同時にかかる権利を甲に譲渡する。なお、当該権利に基づき取得される特許権又は実用新案権は、甲に帰属するものとする。また、本件成果物に関する著作権(本条第2項に定める乙著作権等を除く。)は、第●条に定める検収の完了時をもって、乙から甲に譲渡されるものとする(著作権法第27条及び第28条の権利を含む。)。

2. 本件成果物に組込まれ又は利用された、乙が権利を有する既存の著作物並びに発明及び考案に対する権利であって乙が甲に対しあらかじめ書面により別途指定する権利(以下「乙著作権等」と総称する。)は、乙に留保され、甲は、乙著作権等を、甲が本件成果物を使用するため並びに甲が自身の業務を遂行するために必要な範囲で、無償で使用及び実施(第三者への再許諾を含む。)することができる。

3. 第1項に定める著作権の譲渡の時期にかかわらず、乙は、本件成果物を甲の許可なく、本件業務の遂行以外の目的で利用することはできない。

4. 乙は、本条の定めに従い甲に著作権を譲渡し、又は著作権法その他の法律に基づき甲に乙著作権等の利用を許諾した本件成果物の全部又は一部に関しては、甲の事前の書面による同意なくして、著作人格権を行使しない。

5. 甲は、乙著作権等については、それぞれ第●条に基づく秘密保持義務の負担及び対価の支払を要せず自由に使用できる。

6. 本件業務の遂行の過程で、乙において、発明、考案、意匠の創作(本条に定める本件成果物に関するものを除く。以下「発明等」と総称する。)を生じたときは、乙は、速やかにその旨及び内容を書面で甲に通知するものとし、この場合、甲及び乙は、発明等について工業所有権を受ける権利の帰属を協議の上決定するものとする。

8.   受託者に対する監督、報告徴求等

業務委託契約書において、受託者において委託業務が適切に遂行されているかを、委託者が確認する手段を規定しておく必要があります。委託業務が適切に遂行されているかを確認する具体的な手段としては、資料等の提出要請、立入検査等があり得ますが、業務内容、成果物等を考慮して、案件ごとに実効的な手段を選択することが望ましいといえます。

【例】

(監査・検証・監督)

1.    甲は、本契約に定めた乙の遵守状況を確認するため、乙の本件業務の実施状況を監査する権利を有する。甲は乙に対して関係資料の提出要請及び立入検査を行うことができるものとし、乙はこれを応諾する。

2.    甲は、報告内容、検査結果等により必要と判断される場合、乙の本件業務の遂行方法その他本件業務に関わる事項について、乙に改善を申し入れることができるものとし、乙はこれに適切に対応するものとする。

 

ページの上部へ戻る

Copyright(c) 2017 長瀬総合法律事務所 All Rights Reserved.
弁護士専門ホームページ制作