II. 契約書作成上のお作法

以下では、「契約書作成上のお作法」として、よくご質問をいただく契約書の形式的な注意点について、契約書サンプルに沿ってご説明していきます。

名称未設定

1.①契約締結と書面の要否

前述のとおり、原則として当事者間で契約締結に向けた合意があれば、書面がなくても口頭の約束でも契約は成立します。

もちろん、FAXやメールでの約束であっても契約は成立します。

ただし、保証契約のように、法律上書面の作成が契約の効力要件とされている場合(民法446条2項)や、合併契約のように法律上一定の書面の作成・交付・保存等が義務づけられている場合もある(会社法782条1項1号、794条1項、976条8号)ことに注意が必要です。

2.②契約書のタイトル

法律上、契約書のタイトルの決め方について特段のルールはありません。

そのため、どのような名称の契約書にするかは当事者間で自由に決めることができ、また、契約書のタイトルと契約内容には直接の関係はありません。

ただし、たとえば契約の実態が賃貸借契約であるにもかかわらず、契約書の名称を「売買契約」とするなど、実態とあまりにかけ離れた名称をつけてしまうと、後々契約の解釈を巡って争いが生じた場合に徒に争点を増やすことになりかねません。

なお、実務上、たとえば業務提携に向けた基本条件等についての意思確認や二者間での個別の合意をする場合等に、あえて「○○契約書」という名称ではなく、「○○に関する覚書」、「○○に関する念書」といった名称で書面を作成することがありますが、法律上は「契約書」と「覚書」「念書」との間で効力に違いはありません。

あくまで当該書面の中身・実態に着目して効力が認められるため、基本条件を確認する趣旨で締結するのであれば、たとえば「第1条 本覚書の趣旨」といった条項を規定することが望ましいといえます。

3. ③当事者名の表記

契約書における当事者名の表記についても、契約書のタイトルと同様、「こうしなければならない」というルールはありません。

一般的には「甲」「乙」「丙」などと表記する例が多いですが、もちろん「株式会社●●●」「○○○合同会社」と表記しても構いません。

もっとも、明らかに当事者の一方をとり間違えて記載している条項を見受けることもあり(契約書冒頭の「甲」「乙」と、末尾の署名欄の「甲」「乙」が逆になっているケースもありました)、そういった明らかな誤記を防ぐためには、たとえば「長瀬株式会社」であれば契約書中の当事者名を「長瀬」として簡略化して記載したり、「ベンダー」と「ユーザー」と表記する等、当事者名の表記と当事者の役割の関係を明確化して記載するといった工夫をすることも一案です。

4. ④原本の通数

原本を何通作成するかについても、契約書のタイトルや当事者名の表記と同様、法律上特段の定めはありません。

通常は当事者の人数分作成し、それぞれが一通保管すると規定することが多いですが、たとえば当事者が3名以上等の多数にわたる場合には、当事者の一部のみが原本を保管し、他の当事者はこれをコピーした「写し」を保管するという取扱いをすることもあります。

5. ⑤契約書の署名権者

個人ではなく、会社が当事者となる場合には、契約書にサインをする者が当該会社を代表して契約を締結する権限を有することが必要になります。

会社が定款等により代表取締役を定めている場合、代表取締役には会社を代表する権限が与えられている(会社法349条4項)ため、当該会社の代表取締役が契約書末尾の署名権者としてサインするのが一般的です。

もっとも、取締役以外の部長等の従業員であっても、会社から対外的代表権を与えられていれば、有効に契約を締結することができます。

ただし、実際に代表権が与えられているかどうかは外部の取引先からは把握することができないため、相手方担当者に代表権があるか疑わしい場合は、念のため契約締結権の有無を確認した方がよいでしょう。

6. ⑥実印の要否

契約締結に際して、法律上、押印は実印でなければならないといった定めはありません。

そのため、実印、認印[1]いずれによる押印であっても契約の効力自体に差異はありません。

もっとも、実印と異なり認印は簡単に購入できてしまうため、権限のない者が他人になりすます等して押印をするリスクが高まるおそれがあります。

そのため、重要な契約書では実印を用いることがあり、それが実印に間違いないという担保を取るために印鑑証明書の添付を求める場合もあります。

7. ⑦印紙の要否

一定の契約書については、印紙税の納付が義務づけられており、印紙の貼付等が必要となる場合があります(課税文書、印紙税法2条、8条)。

課税文書とは、印紙税法上、印紙税を納付する必要がある文書で、課税物件表に課税物件として定められている文書をいいます(20種類)。

課税文書となるか否かについても、契約書のタイトルによって判断されるわけではなく、たとえば契約書のタイトルが「念書」となっていたとしても、内容が金銭の借用証書であれば、課税物件表1の「消費貸借に関する契約」として、契約金額に応じた収入印紙を添付する必要があります。

なお、課税文書に収入印紙が添付されていなかったとしても、その契約の効力自体に影響はありません。

ただし、納付すべき印紙税を当該文書の作成のときまでに納付しなかった場合には、納付しなかった印紙税の額とその2倍に相当する金額との合計額が、過怠税として課されるため注意が必要です(印紙税法20条1項)。

8. その他

その他、契約書の形式面に関して注意すべき主な点としては以下のとおりです。

① 誤字・脱字等はないか?

誤字・脱字等が直ちに契約書の効力に影響を及ぼすことは少ないですが、「甲」と「乙」が入れ替わっていたり、取引金額の桁を間違えていたりするなど、致命的なミスがある場合もあります。

② 「本件取引」、「本件不動産」等の、契約書において定義付けされた用語が正しく使用されているか?

③ 日付・金額に間違いはないか?参照条文にズレ等はないか?

契約締結日付や契約内の各種条項で引用されている日付、また報酬等の金額については、最終稿となった段階で必ずドラフト段階のものとの比較を行い、内容を検証します。

④ 契約書に付随する「別紙」「別添」の漏れはないか?

契約書本体で概略のみを定め、事務手続や報酬額等の詳細については「別紙」、「別添」に定める場合があります。このような場合には、かかる「別紙」、「別添」等を参照する旨が契約書本体に定められ、また、「別紙」、「別添」等の内容が契約書本体の規定内容と平仄があっているか確認します。

⑤ 空欄にしていた箇所は埋められているか?

最終稿となった段階では必ずドラフト段階で空欄とした部分が正確に規定されているか確認します。

⑥ 契約書作成途中での内部コメントはきちんと削除されているか?

最終稿となった段階では必ずドラフト段階で修正履歴等を付して記載した内部コメントが漏れなく反映され、削除されているか確認します。
上記定義の正確性や空欄の補充漏れ等がないかをチェックするためには、Wordの検索機能も利用すると便利です。

[1] 「実印」とは、印鑑登録されている印鑑のことをいい、「認印」とは、印鑑登録がされていない印鑑、いわゆる三文判のことをいいます。

 

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