IV. 本件控訴審の内容

争点①〜③に関する本件控訴審判決の判旨を要約すると、概要以下のとおりです。

 

1 争点①:本件相違について労働契約法20条が適用されるか

 本件控訴審判決は、「本件の有期労働契約は、期間の定めのある労働契約であるところ、その内容である賃金の定め・・・は、正社員・・・の労働契約の内容である賃金の定め・・・と相違しているから・・・、本件の有期労働契約には、労働契約法20条の規定が適用されることになる。」と判示し、まず、結論として本件相違に労働契約法20条の適用があることを肯定しました。

 その上で、労働契約法20条の趣旨及び「期間の定めがあることにより」の文言解釈について、以下のとおり判示しました。

労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違が不合理なものであることを禁止する趣旨の規定であると解されるところ、同条の『期間の定めがあることにより』という文言は、有期契約労働者の労働条件が向き契約労働者の労働条件と相違するというだけで、当然に同条の規定が適用されることにはならず、当該有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違が、期間の定めの有無に関連して生じたものであることを要するという趣旨であると解するのが相当であるが、他方において、このことを超えて、同条の適用範囲について、使用者が専ら期間の定めの有無を理由として労働条件の相違を設けた場合に限定して解すべき根拠は乏しい

 このように、本件控訴審判決は、本件一審判決と同様、労働契約法20条の趣旨に照らして、「期間の定めがあることにより」とは、期間の定めの有無に関連して生じたものをいう、と解し、それ以上に限定的に解釈すべき理由はない、と判示しました。

 

2 争点②:労働契約法20条における「不合理」性の判断基準

次に、本件控訴審判決は、労働契約法20条における「不合理」性の判断基準について、以下のように判示しました。

「労働契約法20条は、有期契約労働者と無期契約労働者の間の労働条件の相違が不合理と認められるか否かの考慮要素として、①職務の内容、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲のほか、③その他の事情を掲げており、その他の事情として考慮すべきことについて、上記①及び②を例示するほかに特段の制限を設けていないから、労働条件の相違が不合理であるか否かについては、上記①及び②に関連する諸事情を幅広く総合的に考慮して判断すべきものと解される」

 かかる判断基準は、一見すると労働契約法20条の文言どおりであり、本件一審判決の判断基準と大差ないようにも思えます。しかしながら、本件一審判決は、以下のように、本件控訴審判決とは大きく異なる判断基準を定立しています。

同条が考慮要素として上記①及び②を明示していることに照らせば、同条がこれらを特に重要な考慮要素として位置づけていることもまた明らかである。また、短時間労働者であることを理由として賃金の決定その他の待遇について差別的取扱いをしてはならない旨を定めた「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」9条に鑑みると有期契約労働者の職務の内容(上記①)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲(上記②)が無期契約労働者と同一であるにもかかわらず、労働者にとって重要な労働条件である賃金の額について、有期契約労働者と無期契約労働者との間に相違を設けることは、その相違の程度に関わらず、これを正当と解すべき特段の事情がない限り、「不合理」(労働契約法20条)との評価を免れない

 このように、本件一審判決は、「不合理」性の判断要素のうち、とくに①・②を重視するとともに、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」9条に言及し、①・②が同一であれば、原則として「不合理」な相違となり、例外的に、正当化すべき特段の事情がある場合に限って「合理」的な相違となる旨の判断基準が示されています。

 すなわち、本件控訴審判決が、労働契約法20条の文言どおり、①・②・③の考慮要素を並列的に評価し、労働条件の相違に係る諸事情を総合考慮して「不合理」性を判断しようとするものであるのに対して、本件一審判決は、①・②の要素を重視し、①・②が同一であれば、「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」9条に照らして、原則として「不合理」な相違として判断するものといえます。

 本件一審判決の判断基準は、後記のとおり社会の労働実態を捨象してやや労働者保護に傾きすぎているきらいがあり、労働契約法20条の文理解釈からは、①・②・③の考慮要素を並列的に捉える本件控訴審判決の方が適当と思われます。

 

3 争点③:本件相違は「不合理」なものとして労働契約法20条に違反するか

 本件控訴審判決は、本件一審判決と同様、正社員と原告らとの間には、①「業務の内容及び当該業務に伴う責任の程度に差異がなく」、また、②被告が「業務の都合により勤務場所や業務の内容を変更することがある点でも両者の間に差異はない」として、①職務の内容、②当該職務の内容及び配置の変更の範囲は同一である旨判示しました。

その上で、③その他の事情について、以下のとおり詳細な検討を行った上で、①〜③を総合考慮し、結論として「不合理」な相違ではなく労働契約法20条に違反しない旨判示しています。

 

ア 定年退職者に対する雇用確保措置

「控訴人が定年退職者に対する雇用確保措置として選択した継続雇用たる有期労働契約は、社会一般で広く行われているものである」

 

イ 定年後継続雇用者の賃金引き下げの必要性

従業員が定年退職後も引き続いて雇用されるに当たり、その賃金が引き下げられるのが通例であることは、公知の事実であるといって差し支えない」

「我が国において、安定的雇用及び年功的処遇を維持しつつ賃金コストを一定限度に抑制するために不可欠の制度として、期間の定めのない労働契約及び定年制が広く採用されてきた一方で、平均寿命の延伸、年金制度改革等に伴って定年到達者の雇用確保の必要性が高まったことを背景に、高年齢雇用安定法が改正され、同法所定の定年の下限である60歳を超えた高年齢者の雇用確保措置が、ごく一部の例外を除き、前事業者に対し段階的に義務づけられてきたこと、他方、企業においては、定年到達者の雇用を義務付けられることによる賃金コストの無制限な増大を回避して、定年到達者の雇用のみならず、若年層を含めた労働者全体の安定的雇用を実現する必要があること、定年になった者に対しては、一定の要件を満たせば在職老齢年金制度・・・や、60歳以降に賃金が一定割合異常低下した場合にその減額の程度を緩和する制度(高年齢雇用継続給付)があること、さらに、定年後の継続雇用制度は、法的には、それまでの雇用関係を消滅させて、退職金を支給した上で、新規の雇用契約を締結するものであることを考慮すると、定年後継続雇用者の賃金を定年時より引き下げることそれ自体が不合理であるということはできない

社会の実相として、60歳の定年後に継続雇用の措置が採られることが多く、その際60歳までの処遇と比べて低い処遇になることが一般化していることについては、様々な事情を考慮すれば、一般的には合理的なものと考えられるとの見解が公的に示されている」

 

ウ 運輸業における引き下げの実態

「控訴人が属する運輸業を含めて、定年後の継続雇用制度の導入の状況についてみると、独立行政法人労働政策研究・研修機構の平成26年5月付けの「高年齢社員や有期契約社員の法改正後の活用状況に関する調査」結果・・・によれば、企業全体の傾向として、継続雇用制度を採用する会社が多く、その多数が、定年前後で継続雇用者の業務内容並びに勤務の日数及び時間を変更せず、継続雇用者に定年前と同じ業務に従事させながら、定年前に比べて賃金を引き下げていることが認められる

「控訴人が属する業種又は規模の企業を含めて、定年の前後で職務の内容(上記①)並びに当該職務の内容及び配置の変更の範囲(上記②)が変わらないまま相当程度賃金を引き下げることは、広く行われているところであると認められる」

 

エ 原告(被控訴人)らの不利益の程度

「控訴人は、被控訴人らを含めた定年後再雇用者の賃金について、定年前の79パーセント程度になるように設計しており、現実に、定年1年前の年収と比較すると、被控訴人A1について約24パーセントの減、被控訴人A2について約22パーセントの減、被控訴人A3について約20パーセントの減となっており・・・、控訴人の想定と大差なく、かつ、前記のとおり控訴人の属する規模の企業の平均の減額率をかなり下回っている

「このことと、控訴人は、本業である運輸業については、終始が大幅な赤字となっていると推認できること・・・を併せ考慮すると、年収ベースで2割前後賃金が減額となっていることが直ちに不合理であるとは認められない

 

オ 社会における一般的状況及び代償措置

もともと定年後の継続雇用制度における有期労働契約では、職務内容等が同一で、その変更の範囲が同一であっても、定年前に比較して一定程度賃金額が減額されることは一般的であり、そのことは社会的にも容認されていると考えられること、控訴人が、①無期契約労働者の能率給に対応するものとして有期契約労働者には歩合給を設け、その支給割合を能率給より高くしていること、②無事故手当を無期契約労働者より増額して支払ったことがあること、③老齢厚生年金の報酬比例部分が支給されない期間について調整給を支払ったことがあるなど、正社員との賃金の差額を縮める努力をしたことに照らせば、個別の諸手当の支給の趣旨を考慮しても、なお不支給や支給額が低いことが不合理であるとは認められない

 

カ 基本給の増額及び退職金の支給における相違

「正社員の場合には、勤続するにつれて基本給が増額され、3年以上勤務すれば退職金が支給されるのに対し、嘱託社員の場合には、勤続しても基本賃金その他の賃金の額に変動はなく、退職金が支給されることもないとしても、被控訴人らがいったん退職して退職金を受給していること、その年齢等を考慮すると、本件の有期契約労働者が長期にわたり勤務を続けることは予定されていないことを考慮すると、不合理性を基礎付けるものとはいえない

 

キ 被告(控訴人)の賃金コスト抑制の意図

「定年退職者の雇用確保措置として、継続雇用制度の導入を選択することは高年齢者雇用安定法が認めるところであり、その場合に職務内容やその変更の範囲等が同一であるとしても、賃金が下がることは、広く行われていることであり、社会的にも容認されていると考えられるから、前記の控訴人の意図は、労働契約法20条にいう不合理性を当然に基礎付けるものではない」

 

ク 労使間の協議

「労働条件の改善は、いずれも、控訴人と本件組合が合意したものではなく、控訴人が団体交渉において本件組合の主張や意見を聞いた後に独自に決定して本件組合に通知したものであり、また、控訴人は、本件組合が、定年後再雇用者の賃金水準について実質的な交渉を行うために、現状と異なる賃金引き下げ率による試算や経営資料の提示等を繰り返し求めてきたのに対し、その要求に一切応じていない・・・という事情はあるものの、控訴人と本件組合の間で、定年後再雇用者の賃金水準等の労働条件に関する一定程度の協議が行われ、控訴人が本件組合の主張や意見を聞いて一定の労働条件の改善を実施したものとして、考慮すべき事情である

 

ケ 小活

 以上の事情を総合考慮し、本件控訴審判決は、「本件相違は、労働者の職務の内容、当該職務の内容及び配置の変更の範囲その他の事情に照らして不合理なものであるということはできず、労働契約法20条に違反するとは認められない」として、本件相違は労働契約法20条に反せず適法であるとして、本件一審判決を覆しました。

 なお、不法行為の成否については、「控訴人が、被控訴人らと有期労働契約を締結し、定年前と同一の職務に従事させながら、賃金額を20ないし24パーセント程度切り下げたことが社会的に相当性を欠くとはいえず、労働契約法又は公序(民法90条)に反し違法であるとは認められ」ず、「その余の点について判断するまでもなく」、原告らに対する不法行為は成立しない。

 

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