IV. 本件一審判決の概要

1 家裁実務への影響

前記のとおり、従前の家裁実務上、預貯金を遺産分割の対象とする旨の相続人全員の合意があった場合に限って預貯金を遺産分割の対象とすることが認められていましたが、本件最高裁判決以降、相続人の同意の有無にかかわらず、預貯金を遺産分割の対象とすることが可能となります。

一方で、遺産が預貯金債権しかない場合であり、特別受益者が存在しない場合であっても遺産分割手続が必要となる可能性が生じ得ることに注意が必要です。

 

銀行実務への影響

これまでの銀行実務では、預貯金債権が可分債権として当然に書く相続人に分割承継されるからといって、直ちに各相続人からの払戻請求に応じてきたわけではありません。

すなわち、預金者が死亡した事実を銀行等が知った場合、不注意によって無権利者に預金を支払うことがないようにするため、まず関係帳簿に預金者死亡の事実を注記するとともに、相続人と称する者から預金の払戻が請求された場合、正当な相続人であることを確認するため、戸籍謄本の徴求、相続人の印鑑証明の提出、住民票の提出、前相続人の念書の徴求といった手続が行われてきたとされています。

本件最高裁判決により、理論上も預貯金債権が当然に分割承継される訳ではなく、遺産分割の対象になることが明確になったことから、銀行等金融機関は、遺産分割手続が終了するまで、各相続人からの法定相続分に基づく払戻請求に応じなくなることが想定されます。

 

相続税申告・納付への影響

本件最高裁判決により、遺産分割手続が終了するまで、各相続人はそれぞれの法定相続分に応じた預貯金の払戻請求ができなくなります。

その結果、たとえば、相続開始の事実を知った日から10ヶ月以内に相続税の申告・納付(相続税法27条、33条)が困難となる事態が生じることが予想されます。

このような事態に対処するためには、被相続人の生前から遺言を作成しておく等、あらかじめ準備しておくことが望ましいといえます。

また、本件最高裁判決における補足意見で指摘されているとおり、相続財産中の特定の預貯金債権を一部の共同相続人に仮に取得させる仮処分(仮分割の仮処分。家事事件手続法200条2項)等を活用することも検討の余地があるものと思われます。

 

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