III. 本件最高裁判決の判旨

前記争点について、本件最高裁判決は、

共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である

と判示し、続けて、

「以上説示するところに従い、最高裁平成15年(受)第670号同16年 4月20日第三小法廷判決・裁判集民事214号13頁その他上記見解と異なる当 裁判所の判例は、いずれも変更すべきである」

として、従来の判例が採用してきた当然分割の法理を変更することとしました。

すなわち、本件最高裁判決は、①普通預金債権、②通常預金債権、③定期貯金債権の3つについて、相続開始と同時に分割承継されるものではなく、遺産分割の対象となる旨の判例変更を行ったものといえます。

本件最高裁判決判旨におけるポイントは、概要以下のとおりです。

 

1 遺産分割の仕組み

遺産分割の仕組みは、被相続人の権利義務の承継に当たり共同相続人間の実質的公平を図ることを旨とするものであることから、一般的には,遺産分割においては被相続人の財産をできる限り幅広く対象とすることが望ましい」

「遺産分割手続を行う実務上の観点からは、現金のように、評価についての不確定要素が少なく、具体的な遺産分割の方法を定めるに当たっての調整に資する財産を遺産分割の対象とすることに対する要請も広く存在することがうかがわれる」

 

2 預貯金の性質

「預貯金は、預金者においても、確実かつ簡易に換価することができるという点で現金との差をそれほど意識させない財産であると受け止められている」

「共同相続の場合において、一般の可分債権が相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されるという理解を前提としながら、遺産分割手続の当事者の同意を得て預貯金債権を遺産分割の対象とするという運用が実務上広く行われてきているが、これも、以上のような事情を背景とするものである」

 

3 普通預金及び通常貯金

「普通預金契約及び通常貯金契約は、一旦契約を締結して口座を開設すると、以後預金者がいつでも自由に預入れや払戻しをすることができる継続的取引契約であり、口座に入金が行われるたびにその額についての消費寄託契約が成立するが、その結果発生した預貯金債権は,口座の既存の預貯金債権と合算され、1個の預貯金債権として扱われるものである」

「預金者が死亡することにより、普通預金債権及び通常貯金債権は共同相続人全員に帰属するに至るところ、その帰属の態様について検討すると、上記各債権は、口座において管理されており、預貯金契約上の地位を準共有する共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り、同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在し、各共同相続人に確定額の債権として分割されることはない

「相続開始時における各共同相続人の法定相続分相当額を算定することはできるが、預貯金契約が終了していない以上、その額は観念的なものにすぎない

 

4 定期預金

「定期郵便貯金について上記のようにその分割払戻しを制限する趣旨は,定額郵便貯金や 銀行等民間金融機関で取り扱われている定期預金と同様に、多数の預金者を対象とした大量の事務処理を迅速かつ画一的に処理する必要上、貯金の管理を容易にして、定期郵便貯金に係る事務の定型化,簡素化を図ることにある」

「しかるに、定期貯金債権が相続により分割されると解すると、それに応じた利子を含めた債権額の計算が必要になる事態を生じかねず、定期貯金に係る事務の定型化、簡素化を図るという趣旨に反する

 

ページの上部へ戻る

Copyright(c) 2017 長瀬総合法律事務所 All Rights Reserved.
弁護士専門ホームページ制作